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マザーツリー物語
母なるみかんの木といのちの物語
![](https://img21.shop-pro.jp/PA01399/325/etc/OHISAMAtoKUDAMONO_00.jpg?cmsp_timestamp=20190609152606)
ある小さな町の小さな丘に、大きな1本の木がありました。
『ここからは、みんなの様子がよく見えるのよ』
ここは、鹿児島県。 人口6000人にも満たない小さな町の『クルス農園』です。
クルス農園にはみかんの丘があります。 その一番高い位置に、
樹齢約60年の大きなみかんの木があります。
十万温州という品種の、とても美味しい温州みかんです。
寒さの厳しい2月ごろ、みかんの木は考えます。
『今年は、体を大きくしようかしら? それとも、たくさんの実を成らせようかしら』と。
みかんの木にとって、果実を成らせることは大仕事。たくさんのエネルギーを要します。
つまり、実を成らせるということは、
木自身への養分を減らし、命を削って子供である果実を育てるということ。
木を成長させれば実が減り、
実をたくさん成らせれば、木の成長が鈍ります。
この選択を、木自身が決めているのです。
『今年はねぇ、実をたくさんにしたいのよ。 きっと賑やかになるわ。よろしくね。』
木は、農園の主人に語りかけます。
『まかせとけ!美味しいのいっぱい実るように、 一緒に頑張ろう!』
農園の主人である農園長は、この『実を成らせる』と『木の成長』の意志を読み取り、
みかんの木が十分に力を発揮できるよう、剪定の技術によって導きます。
![](https://img21.shop-pro.jp/PA01399/325/etc/OHISAMAtoKUDAMONO_01.jpg?cmsp_timestamp=20190609152551)
こうして大きな決断をした母なる木は、
5月に入るころ
真っ白でとてもかわいい花を咲かせます。
みかんの丘は真っ白に染まり、
とても良い香り。
『今日も雨。そろそろかしら・・・』
梅雨が始まる少し前、
みかんの丘を真っ白に染めた花は散り、
小さな小さな生まれたての実が誕生します。
自然の恵みと母からの栄養をもらいながら、
その小さな小さな実は、
すくすくと成長をしていきます。
『それにしても、ちょっと頑張りすぎじゃないか?』
『そうかしら?』
みかんの木は、とてもたくさんの実をつけます。・・・ところが、その多くは切り落とされてしまいます。
『仕方ないのよね。でもやっぱりさみしいわ。
美味しく食べてもらって喜んでもらうことが、 私の役目だものね。』
あまりたくさんの実を成らせると、収穫の時に、とても小さなみかんになったり、
美味しさがなくなったりするため、収穫までたどり着くのは半分以下なのです。
『くよくよばかりしていられないわ! さぁ、みんな!いいわね!ここからが頑張り時よ!』
『私は、あなたたちに、みんなに喜んでもらえるみかんになって 欲しいの。
だから、これからは、優しいばかりじゃいられないわ。 あなたたち自身が持ってる力で、強く生きなさい。』
成長の過程で水分を減らすなどの負荷をかけることは、
果物本来の力を発揮させ、甘くて美味しい果実へと成長します。
反面、木にとっては大きな負担でもあります。
『おやおや、今年の風は、いちだんと強いわねぇ。みんな、しっかりつかまるのよ。』
![](https://img21.shop-pro.jp/PA01399/325/etc/OHISAMAtoKUDAMONO_02.jpg?cmsp_timestamp=20190609152318)
台風です。
鹿児島県は、台風でみかんの木が
折れることもあるほど、
台風被害の多い土地です。
年々強くなる日差しと戦いながら、
過酷な夏を超えたみかんは、
台風にも耐え、
やがて迎える収穫期に向けて、
たくましく成長していきます。
みかんの木と農園長は、二人三脚で多くの苦難を乗り越え、
生まれたての小さな小さな果実を、
長い月日をかけて守り育てます。
そして、朝晩が急に冷え込む秋の終わりごろ、いよいよみかんが色づき始めるのです。
『よく頑張ったわね。みんな、とても立派よ』
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こうして収穫を迎えたみかんの木は、
また、つかの間の休息期へと入ります。
また来年、
美味しいみかんを届けるために。
みかんの木は、母なる木。
四季を感じながら、
1年を通して果実へ命を繋いでいます。
そして、それは、木自身も・・・
やがて、その役目を終える時が訪れます。
みかんの実を育て 、農園の一番高いところからみんなを見守り続けたマザーツリーも樹齢 60年。
新しい木へ、その役目を受け継ぐ時がきました。
『美味しいみかんを成らせるのよ。それがあなたの役目。
そして、いつかあなたも農園を見守り、
みんなに喜ばれる木になってちょうだいね。』
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新しく植えられたその木は、 3年かけて少しずつ実を成らせていきます。
最初は未熟なその木も、長い時を経て、
みんなに喜ばれる木に成長することを願わずにはいられません。
物語は続いてゆきます。